揺れる飛騨市の「農泊」・上

農産漁村の活性化と観光復興などを目的として農林水産省が今年度から始めた施策「農泊」について、古川町弐之町の株式会社美ら地球(山田拓代表取締役)が同町内での「農泊」事業の展開に向けた施設整備事業を立案し、同省への交付金申請を進めていたが、申請に求められる「市町村の認定」を飛騨市から得られず、今回の申請を断念することになった。

提出する予定だった計画は、古川町中心市街地の施設二棟と同町郊外の一棟を簡易宿泊所に改修して「農泊」に活用するというもの。

しかし、この事業に対してすでに簡易宿所を営む既存事業者など一部の利害関係者から、同社の地域への働きかけ方など疑問が噴出。飛騨市は同社に対して、すべての既存事業者などの同意提出を認定条件としたが、同意を得られなかった。市は「既存の施設との調和を図る」「地域での取り組む農泊を推進するような一体的な事業計画である」といった認定要件を満たしていないと判断し、認定を見送った。

一部新聞報道がなされ、既存事業者からの訴えが本紙にも寄せられた。関係者を取材したが、ことを単純化して報じることが困難に思えたため、まずは市の認定問題について報告する。

施設整備計画があいまいなまま進行

「農泊」とは、旅行者が農山漁村にある農家や古民家などで宿泊滞在しながら、その地域の伝統的な暮らしや食、文化などを体験し、地元の人々と交流を楽しむなど地域の魅力を味わってもらおうというものだ。

外国人旅行者を含め観光客を農山漁村に呼び込み、その地域の所得向上や交流人口の増加など図り、農山漁村の活性化につなげることを目的に、農水省が今年度から事業の公募を始めた。

農水省が用意している交付金にはソフト対策とハード対策の2種類があり、今回の施設整備事業はハード対策にあたる。

事業主体がある美ら地球は今年二月十四日、飛騨市観光協会や商工会関係者、宿泊事業者などを対象とした第一回説明会を開催。二月十六日に交付金い関する応募要項が出された後、美ら地球は、全戸回覧の形で第二回説明会の開催を告知。既存事業者や関心のある住民などを対象に三月二日、開催した。

しかし、美ら地球によると、当時はまだ施設整備事業計画ができておらず、主に「農泊」のコンセプトなどの概要の説明にとどまったという。「ある程度の『想定』など話したかもしれないが、全く未確定の話だった」と山田氏。か結果的に詳細があいまいなまま、美ら地球に立案を委任する形に対し、一部の既存事業者らが反発。しかし、美ら地球は、応募の締め切りである三月二十三日までの短期間で立案、提出を強く主張した。

山田氏は「農水省から『次回の公募があるかどうかは確約できない。今やるべきだ』とのアドバイスも受けていた。三月二十三日の提出を目指したのは最善だったと考えている」と話すが、これが火種の一つにもなっている。

施設整備への交付金「市の認定」が条件

ハード対策は、ソフト対策(一年目の上限800万円)に比べ、交付金の額も2,500万円(交付率二分の一)、条件付きで上限5,000万円と規模が大きくなるため、農水省は事業に関する五つの項目をあげ、それぞれ市町村の認定を受けることを条件にしている。

この認定要件があることを美ら地球が認識したのは、要項が出てしばらくしてからだったという。飛騨市も、三月十二日ごろになって美ら地球から打診があるまでは、認定が必要との認識はなかった。静観を決めていた市だが、急きょ対応を検討することになる。

市が同意書の提出を求めたのは、認定項目の中に「地域に所在する既存の施設との調和を図り、また当該施設と連携して地域で取り組む農泊を推進するような一体的な事業実施計画であること」があったことが理由だ。

これをもとに「計画には地域の人々の理解が不可欠」と判断。美ら地球に対して、対象地域で宿泊業など営むすべての既存事業者など同意書を提出を認定条件に示した。

「地域との調和」認識の違いが「農泊」阻む

「『説明会から計画提出までがあまりに短期間。これでは検討もできず、進め方に疑問がある』と主張する人もいる」と山田氏に問いかけた。

山田氏は「今回の事業へ疑問を投げかけた一部の人からは、一月下旬にも事業について問い合わせがあった。参画を呼びかけたが、現在までに動きはない。検討の時間はあったと考える。今回の計画に「乗らなかった』ということではないか」「『農泊については、同じ地域内で別の協議会を立ち上げて事業を実施しても問題ないと、農水省の回答を得ている。そういう選択肢もあるのではないか」と持論を述べた。

このあたりに、関係者の認識の隔たりがないだろうか。

山田氏の持論からは、一部の利害関係者の疑問は据え置いたままで「賛同者だけで事業は進められる」という認識が垣間見られる。

一民間企業対象の補助事業ならまだしも、今回の「農泊」のように「地域一丸となった体制の整備」「地域の合意形成を図る」といった条件を、こうした認識でクリアできるだろうか。

市の担当者は「地域との調和を求めて100%の既存事業者との同意を求めた。厳しいという声もあるかもしれなが、称すでも反対する人がいれば『調和』とはならないというのが行政の考え」と主張した。

「地域との調和」をどうとられるか。両者の間に認識の隔たりが感じられる。まずこの齟齬を解消しないことには、いつまでたっても市の「認定」が降りることはない。結果的に「農泊」も進展しないのではないか。【次号へ続く】(飛騨市民新聞2018年3月31日 掲載)

 

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