飛騨市民新聞「所有者の思いに寄り添う施策を〜空き家活用『末広の家』オーナーさんに聞く〜」に掲載されました。

古川町宮城町の株式会社柳組(柳七郎代表取締役)が、地域の空き家を利活用する「飛騨里山オフィス事業」を進めている。所有者から空き家を借り受けて管理し、都市部の企業や個人事業主などに利用してもらうというもの。全国の自治体が頭を抱える空き家対策への具体的な提案の一つとして注目されている。

徐々に成果をあげている事業だが、依然「貸したくない」所有者が多いのが現状だ。「使えるうちは貸したくない」「貸してしまうと、売りたい時に売れない」「息子が帰ってくるかも」「老人ホームに入っても、心の拠り所に」。思いや事情は様々だ。空き家の利活用へ向けて、所有者の理解を得るためのヒントはないか。同社に家の維持管理を委託した所有者の一人、中島さん(66、愛知県在住)にその経緯や家の思いなどを聞いた。

ー空き家の維持管理 悩みの種だったー

中島さんは、古川町にある里山オフィス「末広の家」を共同所有する四人兄妹の一人だ。

「末広の家」は約35年前、高品質の国産木材をふんだんに使い、地元の大工の優れた技術で建てられた数寄屋造りの民家。乗鞍岳を模して造り込んだと見られる石庭もあり、随所にこだわりが感じられる家だ。

この家を継いだ長男の北村さんが亡くなり、実質的に空き家になったのは約4年前。維持管理が難しかったため相談の末、中島さんを含めた兄妹で贈与を受けた。思い入れがあり「残したい」という気持ちが強かった。

しかし、仕事や結婚で飛騨を離れ、各人がすでに東京や静岡、愛知など遠隔地で家庭を築いている。それぞれの家庭の事情、高齢化もあって維持管理はやはり難しく、悩みの種だった。保養施設として利用してくれる会社がないか探しまわったが見つからず、疲れ果てあきらめた経緯もあるという。一時は家を解体する話しを業者と進めた。

解体が現実味を帯びていた2012年春、同社の事業を報道で知り、すぐ連絡。半年後には同社による運営が始まった。

ー故郷を離れても「実家」へ帰れる喜びー

同社は、1、2週間に1度のペースで空気の入れ替えを行ったり、草刈りや雪下ろし、駐車スペースの雪かきなど管理を行っている。

中島さんが特に心配していたのは雪。周辺住民だけでなく、雪の重みや湿度による建物自体の痛みも気になっていた。今はそうした心配がない。「一生懸命守ってもらい、良い形で残せて感謝しています。ありがたい」と中島さん。

定期的に人の手が入ることで家の様相も変わってきたという。「前は、帰ってくるたびに寂しい感じがしましたが、人の手が入って、今はキラキラしている感じがします。古川へ向かう時に気分が楽になった」と笑顔で語る。今も古川祭りや三寺まいりの時など、年3回ほどのペースで古川町へ「帰る」。利用者の予約がなければ、オーナーとしていつでも帰ってこられるのは大きなメリットだ。

滞在中、近所の人から「電気が点いているのを見てうれしい」「兄ちゃんはいいものを残してくれたね」など声をかけてもらえるのも喜びだ。幼いころから世話になった近所の人々にあいさつすることも楽しみの一つ。「都会に住んで初めて、古川が故郷なんだなと実感しました。両親がいなくなると故郷とは疎遠になりがちですが、年をとったら帰ってきてもいいかなとも思っています」。今は故郷を離れ、ばらばらに暮らす兄妹。家族の精神的なつながりを保つ役割を、この家が果たしてくれている実感するという。

愛知県では創作キルトやリサイクル手芸の活動、衣類リフォーム教室の講師を勤めるなど、多忙な日々を送る中島さん。「この家で過ごすのが唯一の息抜き。生活の幅が広がった気がしますね」。作品の中でも評価が高いのが、古川の冬景色や情趣あふれる街並みの刺繍を施したもの。生まれ育った古川の町が創作活動の原点になる。

ー思いや事情は人それぞれ 所有者の話し聞く場作りをー

同社に家を預けることに抵抗はなかったという中島さん。家の残し方などについて話し合った結果、同社と信頼関係ができたのも理由の一つだ。

愛着のある家が残り、今も自分の家として使うことができ、故郷とつながれるのが何よりだという。「これだけの建物だからもったいない。皆で共有する気持ちで使ってもらいたいし、みんなの財産になってくれてもいい」。

そうした思いも含め、「これからの空き家の利活用には『共有』の意識も必要かも」と指摘する。

だが、一方で家庭それぞれの事情にも思いをはせる。「こちらの人は、都会の人よりも不動産に強い思い入れを持っているかもしれません。家をどうしていきたいかもそれぞれ違う。自分たちが生きてきた軌跡を残しておきたいから、手をつけて欲しくないという気持ちもあるかも。私たちもどうやって残すか、考えるのは大変でした。日に日に朽ち果てていく空き家の残し方を、それぞれが真剣に考えることができたら」と中島さん。

家に愛着があればあるほど、他人の手に委ねることに抵抗を覚える人もいるかもしれない。自治体には待ったなしの空き家対策だが、所有者の思いや迷い、事情に応じて空き家の利活用法を一緒に考えていく「場」やマンパワーが、今後求められることになりそうだ。あまりに大きな課題とも言えるが、官民共同で地道な一歩を踏み出すべき時期がもう来ている。(飛騨市民新聞 2014年2月1日)

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